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英国諸島巡航(第3部)



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1999年8月13日(金)エジンバラ(ロサイス)着1315・ドレスコード:カジュアル
例によってリドカフェでフルーツたっぷりの朝食を摂る。今朝は天気も良いのでスライドを開けて潮の香りの中でコーヒーのお代わりを頼む。
右舷に陸地が見える。船はフォース湾に入ろうとしているようである。
右舷に小さな島が見えた。白い小さな構造物が見える。レーダー塔か霧笛台らしい。メイ島のようだ。
エジンバラは湾の内側、左舷側になるが、本船はさらに奥まで進んで対岸のロサイスに接岸する予定である。
ロサイスは英国海軍の軍港で工廠もある。
パームコートでフォース湾に入ったのを見てサンデッキに出る。
前方に観光絵葉書などで有名なフォースの鉄道橋が見える。厳つい感じのトラス橋である。
この瀬戸はクィーンズフェリーと呼ばれている。おそらくフォース鉄橋が出来るまでは渡し舟が繋いでいたのであろう。
鉄橋の南たもとの地名はサウスクィーンズフェリー、北はインバーキーシングと言うそうだ。
スコットランドの都、エジンバラはこの南を少し東に寄ったところにある。河口のような奥の深い湾であるファースオブフォースから言えば海側に当たる。
つい先年解役になったロイヤルヨット「ブリタニア」がここに係留され公開されていることを知る人は少ない。

その手前左舷前方に小型タンカーが繋船して荷役中であった。
ここはスコットランドの首都エジンバラの海からの入り口、言わば勝手口だからエネルぎーとか原材料とかの荷揚げ・水切りが行われているだろうことは容易に想像できる。
それにしても、こんな大都市のこんな近くで原油を陸揚げしいているのは意外であった。
普通、我々がタンカーが接岸すると言うと化学コンビナートのようなものを思い浮かべる。だが、ここにはそんなものはない。もちろん、無いほうが良いに決まっている。イギリスでは北海油田が開発されて石油輸入国から輸出国になったことなどが思い出された。

鉄道橋に近づくと、点検工事中で、足場が組まれており、トラスの上で作業中の作業員が両手を振り回して歓迎してくれた。サンデッキに出て入港風景を見ていた数人はスコットランド本土で最初の歓迎の挨拶を受けたわけである。
このトラス橋は初対面であるが、見覚えがある。第二次世界大戦中の東南アジアを舞台にした映画があった。邦題を「戦場にかける橋」という泰緬鉄道敷設工事を扱ったものである。出演した俳優には早川雪舟、アレック・ギネス、ウィリアム・ホールデン、ジェフ・チャンドラー、ジェームズ・ドナルド等がいた。
早川雪舟扮する日本陸軍の部隊長が、英米軍の捕虜を駆使してクワイ河に鉄道橋を建設する物語であるが、日本軍工兵隊設計の桁橋では上手く行かず、アレック・ギネスが演じる英軍将校がトラス橋を完成させるのであるが、竣工・開通式に米軍がこれを爆破してしまうと言う荒筋である。

このクワイ河の木製トラス構造の鉄道橋がこのフォース鉄道橋にイメージとして良く似ているのである。

本船が橋に差し掛かるとき上り電車が、通過して振り向いたとき下り電車が鉄橋を通過していた。

トラスの中ほどに「21世紀まであと○○○日」とカウントダウンの表示が見えた。

左の写真では小さくて判らないが、ほぼ中央に左に向かって通過中の列車がいて、その上に見えるのがカウントダウンの表示である。

この橋の下を通過すると直ぐ吊橋に差し掛かった。この橋は道路橋である。

モーターウェイM9とM90を接続する国道が走っている。

この吊橋を通過すると船は右に舵を取り、北岸のロサイス軍港に向かう。
このロサイスは幾度も戦場となった北海に近く、ロイヤルネイビーの基地である。

対岸は緩やかなスロープの牧歌的風景が広がっている。
湾内は広く、在泊船舶も居らずヨットがのどかに浮かんでいる。

予定通り、ロイヤルネーバルドックヤード構内のノースウォール埠頭に着岸した。時刻は1315である。

海軍工廠もある艦隊の補給基地であり、港湾警備の哨戒艇や作業船程度は居ると思ったが、奥のほうに槌型クレーンが見える程度で、木材集積港のような長閑な雰囲気で塀も歩哨も見当たらない。

考えてみれば軍艦(HMS)や海軍(RN)が不要な時代であるからこそ何処にでもクルーズ出来るわけで、平和の世の有り難さををつくづくと感じる。

ロイヤルネイビーに敬意を表して岸壁間近の写真は遠慮しておく。

本船のワークボートが慣らし運転でレジャーボートのようの走り回っていた。
短い区間の航海が多く、朝入港・夕刻出港を繰り返すクルーズ船では、船体の点検や乗組員のボートドリルを行う機会が少ない。
それで停泊状態で一泊出来るときを待ち構えている作業は多いのである。一昨年、メキシカンリビエラの時はカリフォルニア半島の先端カボ・サンルーカスで作業艇を卸して、潜水夫を下ろして舵やプロペラを潜水点検していた。
直前の航海までサンフランシスコを基点にアラスカの氷河クルーズを繰り返していたので、潜水点検する機会がなかったのである。
本船は救命艇8隻のうち、6隻がテンダーボートなので沖繋りのときは効率よく乗降客を捌くことができる。ちなみにこのクルーズではラーウィック、初寄港のリバプール、ウォーターフォード(ダンモア・イースト)、それにクルーズ中に寄港が決まったグァンジー島のセントピーター港がテンダーによる上陸であった。

シャトルバスは1300から30分間隔でエジンバラの中心地、セントアンドリュース広場との間を往復することになっている。岸壁からエジンバラまでの距離は約20キロあるのでタクシーで行くとメーターで35USドルと言う。但し、海軍施設なのでタクシーは埠頭の外でしか拾えない。

スコットランドの通貨はスコティッシュポンド(1ポンド:1.64USドル、197円)である。 現地銀行がクリスタルプラザで両替を受け付けてくれる。イギリスでは、イングランド・スコットランド・アイルランド、それに島嶼部でもそれぞれの通貨が流通しているし、船内ではUSドルだからこまめに両替しようとすると面倒である。結局我々は成田で両替した適当な額のポンドとUSドルのみでフランスも含め現地では両替をしなかった。コインのコレクションマニアには珍しいコインの収集が出来てたまらないであろうが、小銭入れを幾つも持って歩くことは煩わしい。
この点、キャッシュカードは便利である。とくにイギリスでは自動販売機は殆どないがキャッシュコーナーは随所にある。歩道に面したビルの壁に設置してあるものもある。今回ご一緒になったS夫妻は毎日寄港するたびに両替していた。

今日はショア・エキスカーションで、世界的に有名なエジンバラの軍楽隊パレードに行く予定である。
ランチにリドビュッフェに行くと顔を覚えたウェイターが、ミリタリー・タトゥーに行くのかと訊ねていた。
我々はタトゥーと言うと刺青のことと思っていたが、ポケット英和を引くと第一に帰営ラッパとか帰営太鼓とか載っていた。刺青は第二候補である。
欧州の軍隊の慣習で、街の居酒屋などで飲んでいる兵隊を門限までに帰営させるために軍楽隊が夜の街を演奏してまわったのが起源らしい。

このタトゥーを見るオプショナルツァーは1850、レセプション前に集合である。
従って夕食はリドビュッフェもクリスタルダイニングも5時から早めに食事がとれるようにしてくれていた。

次々と発進する大型バスにのり、昼にその下を通過したフォース道路橋を渡ってモーターウェイ(M8・M9)にのり、エジンバラへ向かう。

バスの中で観覧席のチケットを貰い、賑やかな夕暮れのエジンバラに到着した。

古い城下町なのでバスを降りてプラカードに誘導されて市街地を歩くと、ここではストリートミュージシャンがキルトを着用してバグパイプを演奏していた。

早足のプラカードに遅れないように歩いてゆくと段々人口密度が増えてきた。

ホリールード宮殿とエジンバラ城を結ぶこの通りには観光の見所が集まっているということである。

それにしてもこの人通りは尋常ではない。バスのプラカードのほかに辻毎にクリスタルの誘導員がにこにこと立っている。

石畳の道路がわずかに登り勾配になると会場は近い。

会場はエスプラナーデ城前の広場である。エジンバラ城の入口を固める城郭である。その前の広場を囲んで30段以上に組み上げられて仮設の観覧席が見えてきた。

左の写真は続々と押し寄せる観光客を振り返ったところである。この方向約1キロにホリールード宮殿がある。
世界的に有名なこのパレードには多くの観光客が押し寄せるのでチケットは直ぐ売り切れると聞いた。

エジンバラの8月は、このミリタリー・タトゥーを中心に街じゅうがフェスティバル一色に染まる。

いろいろな施設でさまざまな催しが行われるほか、街頭でもストリートミュージシャンや大道芸人が路上に寝転んだりしてパフォーマンスを繰り広げている。
車窓から見た街のパブも人であふれていた。
短い夏をしっかり楽しんでいるように見えた。

やっと自分の席にたどり着くことが出来た。良いポジションである。

下から30段程度の高さで、エスプラナーデ城正門の真正面である。

席には発泡材のクッションがある。

座って見渡すと蛍光黄色の合羽を着た警官が会場整備をしており、観覧席の上段には投光器が待機していた。

9時前だと言うのに空はまだ青い。開演の時間が迫ってきた。

開演を知らせるアナウンスに観覧席を埋め尽くした観衆は静まった。

城壁に照明が当たり、「50」の文字が炎の中に浮かび上がった。

今年、50回目のパレードの開演である。城門から騎馬の近衛軍楽隊が広場に整列している。

黒馬・白馬に赤の制服が映えて見事である。

開演は2100である。スコットランド・イングランド・バルバドス・カナダ・合衆国などから800人に及ぶ男女の演技が始まった。

最初は騎馬隊に先導された英国陸軍軍楽隊の吹奏樂。照明に制服やヘルメットが鮮やかである。
エジンバラ城といえばバグパイプで有名なスコットランド軍楽隊がいなくては始まらない。
演奏しながら見事なフォーメーションでクラウンとなる。