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英国諸島巡航(第2部)



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1999年8月12日(木)ラーウィック(シェトランド)着0800出港1500・ドレスコード:カジュアル
デッキに出てみると本船は最微速に落としており先導の水先艇越しに陸地が見える。昨日の日蝕は曇りで日が翳ったのか日蝕のせいか良くわからなかったので見落としてしまった。それに引き換え今朝は見違えるような青空である。
目の前の陸地がシェットランドのメインランドである。大西洋の女王と呼ばれたキュナードのクィーン・メリーの進水に捧げられた詩の一節が思い出される。たしか冒頭は

I am Mary, Queen of the Atlantic.
I am Mary, Queen of Shetland.

と歌い出されていた。
勿論、これは Shetland 沖海戦で奮戦した HMS "Queen Mary" を歌ったものである。北緯60度線を越えてはるばると来たものだと感慨一入であった。

シェットランドの代表港ラーウィックはメインランドの東岸にあるが、その向かいのブレッセイと言う島との間が天然の良港となっている。
港内に進むにつれてマストが多いのに気がついた。漁港にしては多すぎるし、高すぎる。実はこのクルーズに申し込むまで知らなかったのであるが、ここでは1999年国際帆船レースが行われていている。7月20日フランスのサンマロに集結した帆船はスコットランドのグリーノックに向けて23日にレースの前半戦をスタートし、同地から8月9日までにここラーウィックに移動した各艇は今日、16時にデンマークに向けて後半戦のスタートを切るのである。
本船は当初の予定を早めてラーウィックを出港し、この国際帆船レースのスタートを洋上から観戦すると言う。この千載一遇の機会に感謝した。
 
上陸したラーウィックは沖から眺めた印象よりずっと賑わっていた。
カッティーサークレースとして知られる国際トールシップレース後半戦のスタート日で、乗組員は北海を横断するレースに備えて搭載物件の準備や本国との連絡に忙しいことであろう。
スポンサーのページにはすばらしいトロフィーの写真も掲載されている。
日本のカッティーサークのホームページも見つけてここにリンクしたが連絡を取ろうにもメールアドレスが判らない。
街は参加艇の乗組員やこのレースを見ようと集まってきた観衆で朝からお祭りのような人出である。
こんな辺鄙な島にこれほどの人がいたのかと思われるほど、市街地だけでなく広大な墓地や丘の稜線にも人・人・人である。人口8000人と聞いて来たが老若男女、島民全員がこのイベントを歓迎し体験しているようであった。

ラーウィック観光とスカロウェイ城見学と言うオプショナル・ツァーに参加する。
ラーウィックの市街地を通ってスカロウェイを見学し、トロンドラ島・ブルサ島を通りハムナボーエ集落・ティングウォール・ウィッテネスの町を経てラーウィックに戻るのである。
大学生くらいの若いガイドさんが乗るコーチはメインストリートを抜けてなだらかな草原に出た。
シェットランドのメインランドは細長い島である。
コーチはラーウィックの街から少し北に向かい、この細長い島を越えて裏側に出る。
地図によると、その途中にスコットランド本土と連絡する飛行場があるようであるが何処にあるのだろうと車窓から探していると、在った!。
簡易舗装の滑走路と吹流しだけで管制塔もない緊急用のような飛行場である。
開放型の格納庫が目に止まるだけで受付や待合室のありそうな建物も見当たらない。
半開放式の格納庫の中には肩翼双発の小型連絡機が駐機していた。
定期便が成り立つほどの利用者がいるとも思えない。
恐らく島で急病人が出たときに軽飛行機かヘリコプターが飛来することで十分なのではないだろうか。

やがてコーチはあまり高くない峠で停車した。荷車を曳いて上れる程度の傾斜であるが、ここに来て島の西側の展望が開けた。
コーチが停まってドアが開けられる。トイレ休憩にしては廻りになにもない。聞けばここで展望を楽しんで下さいと言う。写真を撮る方はどうぞとも言っていた。
何しろ長閑な眺めである。
牧場だろうか草原だろうか、なだらかな起伏が島の端まで続いている。
ペンションかB&Bのような農家も見える。いかにもシェットランド本島の西岸である。
夏は良いが、島の人達はここで冬をどのように過ごすのだろうか?
コーチは島の尾根伝いに、スカロウェイと言う集落に到着し、ここで駐車した。

ここは17世紀初頭、ラーウィックの首都が在ったところである。

当時はどのくらいの人が住んでいたのだろう。
日本では関が原合戦のあった1600年、領主アール・パトリック・スチュワートによって中世風スタイルで砦が建造された。1615年にアールの処刑によって廃墟になった砦跡がそのまま残っている。

小さなミュージアムがあった。左の写真では読めないが、入り口の上にスカロウェイ・ミュージアムと看板が掛かっていた。
早速そのミュージアムに行ってみた。

人が10人も入ればいっぱいになるような小さな雑貨店のようである。
古い漁船の写真額や漁具、潜水用のヘルメットなどが雑然と並んでいた。
脇の道路にはスレートに、ある船の一生が刻まれていた。漁船・捕鯨船から掃海艇・哨戒艇などに変遷を重ね、当地で沈没したとある。傍に曲がって錆びたスクリュウプロペラが立て掛けてあった。

漁港や、遊具のある小さな緑地で時間をつぶしてコーチに乗る。

さらに南下して小さな集落を幾つか通過した。
所々で放牧されている小さな馬が居た。シェットランドポニーと呼ばれる小型の馬である。

シェットランド諸島のメインランドは島にしては平地が多いが、なにしろ北緯60度以北の寒冷地である。麦やジャガイモは作られていない。殆どが牧地である。ポニーのほか、牛や羊がのんびりと草を食んでいる。

旅行者に人気なお土産は良質なシェットランド・ウール製品だそうだ。素朴な村の温もりが伝わるのだそうである。

昼前にコーチはラーウィックに戻った。朝より人も車も多くなっていて、警官が交通整理をしていた。
あと100m程度になって動けなくなってしまった。

適当なところで車を捨て船着場を見ると、既にスタートポイントに向かうヨットが目に入った。
メインマストの横桁にクルーを登らせて登檣礼で港内を移動しているものもいる。
これほど大型帆船の集結するところに行き合わせることは滅多にない。
ポケットディジタルビデオカメラとコンパクトズームカメラを持って歩き回ることにする。

人の頭ばかり撮っても仕方ないので、保税上屋の外階段の踊り場に上がったり、丘の上の砦に登って先込砲が海を睨んでいる砲座の横から取ったりと動き回ってスナップショットを狙った。
ラスト・テンダーは1430であるが昼頃のテンダーで本船に戻る。
行き交うレース出場艇や対岸と結ぶフェリーの合間を縫って本船のテンダーステーションに接舷する。
カメラを透視装置のコンベアに置こうとするとクォーターマスターが手持ちでゲートを通れと言う。
金属探知機が鳴ると嫌だからゲートの向こうのクォーターマスターに手渡しで預けた。
今日のラーウィック出港は当初の予定を変更して1500とされている。1600に予定されているトールシップレースのスタートを観戦するために、早目に出港して観戦ポイントに移動するためである。
出発前のスケジュールではラーウィック出港予定は1800となっていた。クルーズ船での最終情報は船内新聞で流されるが時折予定の変更がある。従って船内新聞「REFLECTIONS」には必ず目を通して置かなくてはならない。現にこのクルーズでも終日航行の予定であった12日目に海峡諸島のグァンジー島セントピーター港に寄港することになった。

ちなみに船内新聞と言われるものには2通りある。ひとつは食事やドレスコード、それに船内イベントなどが記載されたその船で発行されるもので、もう一つは新聞社が発行してFaxで伝送される一般の新聞である。これには政治経済などいわゆる一般のニュースが掲載されている。Faxなので情報量は少ないが勿論写真や挿絵も載っている。クリスタルでは毎日キャビンに「TimesFAX」が届けられた。

昼食後、サンデッキに上がってみるとレースに参加するトールシップがタグやパイロットボートに先導されてスタートポイントに向かっている。纜を解いて長3声の汽笛を響かせてスタートポイントに向かう帆船に近くの船が汽笛で挨拶をする。これに短く答えてジブや横帆を張りながら港口に向かう。
これに続いて、大小の帆船がスタートポイントに向かう。警戒/監視用のタグボートやヘリコプタも近くで待機している。
99年カッティ・サーク・トールシップレースの後半戦の開始である。
これから1週間かけて北海を渡り、デンマークのゴールまで長い帆走が始まった。
このページではスタート前後のスナップを紹介し、素晴らしい雰囲気をお伝えすることにしよう。
この日の夕食は、イタリア料理のレストラン「プレゴ」を予約していた。

海の見える画廊になっているティファニー・デッキのスターライトクラブの前を通り、シガーバー、メインラウンジ「アベニューサロン」、ビジネスセンターを兼ねたライブラリ、コンピュータ教室(ComputerUniversity@Sea !!)、ブリッジルームを左に見ながら船尾方向に歩いた突き当たりが「プレゴ」である。

Sさん夫妻・Oさん・我々親子・それにKさんの6人である。
この4〜50席のレストランは評判が良く、予約しておかなくてはテーブルが確保出来ない。
ここで食事をするのに別料金は不要である。我々はこのあとも二人で2〜3回、ここを利用した。

イタリア料理も量が多い。量の指定をせずにオーダーすると、ご馳走で満腹になったころメインディッシュが来たりするので最初はウェイターと相談しながらオーダーするのが良い。

ウェイターもソムリエも陽気なイタリア人であるが、総じて皆男前である。

ここでお勧めのメニューはいろいろあるが、中でも逸品は焼きガーリックである。日本では見ることのない大きなガーリックの、頂部を切り落としたものの丸焼きである。
焼いてペースト状になったものをパンに塗って食べるのである。

今日もアベニューサロンでピアノを聴きながら至福のひとときを過ごしてキャビンに戻る。