淡水は河岸に沿った街である。
場所によっては丘が河岸まで迫っているところもある。
公会堂もそんな高台にあり、前には細くて急な坂道が馬偕博士の旧居の前を通って河岸の道路に連絡していた。
紅毛城の前も坂道になっているが、現在は途中ですこし湾曲し、拡幅舗装されているので自動車も通れるが、その近くには民家の軒下から石段や急な細い坂道のままのところも多い。
引き揚げて何十年かして、久しぶりに淡水に行ったときは既に公会堂の跡地は整備されていたので何処か判らなかった。
しかし、河岸道路から急にせり上がった高台に上る細い坂道や石段を見たときに、直感的に懐かしさを感じた。
戦後の都市計画ですっかり戦前の面影を失ったところもあるが、ちょっと路地に入れば昔のままの淡水がそこにある。
名もない細道が当時を偲ばせることがある。