2011年06月11日

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実業家ヘンリー、J.カイザー

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昨日「1956年当時の造船所」として、大戦末期に造成中の埋め立て地に工場を建設しながら建造中の船舶の写真を載せたらLCさんからメールが届いた。
LCさんがオークランドのカイザー社に就職したことは、このメールで初めて知った。

ヘンリーJ.カイザーの名は有名である。
ニューヨーク生まれの彼はカリフォルニアに来て道路工事などを皮切りにフーバーダムなどダムの建設を手がけて事業を拡大した。
第二次大戦が始まると、アメリカは大規模の輸送船隊を持たず、欧州戦線に兵員を輸送するためにイギリスから「クイーン・メリー」や「クイーン・エリザベス」を用船しなければならなかった。

戦争が始まると全地球的に物資を補給するため、短期間に大量の輸送船が必要になることを見越して、カイザーは1939年頃造船会社を設立した。
アメリカ西海岸にあった7つの造船所のうち、4つはカリフォルニア州リッチモンドにありここでリバティ船やビクトリー船など戦標船を主体に747隻が建造された。

短期間に建造するため、従来リベット構造主体であった船体構造を全溶接構造とし、クレーンで吊り上げられる大きさのブロックを地上で構成し、船台上ではブロック間の溶接だけで進水させることが出来たので、従来数ヶ月を要していた船台上の工事を数日に短縮することが出来た。

画期的な構造であり建造方法であったが、思わぬところで大問題が生じた。
岸壁で荷役中、あるいは洋上を航行中の新しい船舶が轟音とともに折れて沈没する事故が続いた。
調査していると、事故を起こして沈んだ船はリバティ船など全溶接構造の戦時標準船であることが判り、事故を徹底的に調査研究が行われた結果、船体を構成する鋼板の脆性破壊が原因であることが判明した。
脆性破壊とは「鋼材は剛体のようであるが荷重を受けると、飴をゆっくり伸ばしたり曲げたりするとき変形するように僅かに撓む(歪む)。ところがこの飴を冷蔵庫で冷やして力を加えると変形せずにガラス細工のように折れてしまう。」このような破壊を脆性破壊という。
2600隻建造されたリバティ船の200隻以上がこの種の事故を起こしていた。

戦前から船体構造に溶接を用いることは提案され、試行されていたが船体安全性の見地から主要部分に採用することに躊躇していたのである。

戦後の造船業と製鉄業の研究機関で、世界的に船体構造用鋼板の脆性破壊の研究が行われ、低温でも脆性破壊を起こしにくい改良された鋼材の研究や、溶接方法やその手順など工法の研究がさかんに行われ、我々が造船会社に就職した頃は主船体の左右一条のみクラック・アレスターとして鋲接線が残っていたが、まもなく鋲(リベット)は完全に姿を消した。

現場の技師も設計技師も、脆性破壊のことを知らない造船技師は居なかった。

LCさんがカイザーに就職していたと聞いて、他人とは思えない親しみを抱いた。

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リバティ船の話には続きがある。

こうして合衆国の西岸だけでなく、東岸でも五大湖でも何千隻もの戦時標準船が建造されたが、毎月建造される船舶より多くの船舶が撃沈された。

それでカイザーは巨大な飛行艇を開発することを提唱した。
陸軍兵士を700人以上乗せる当時としては桁違いの構想であった。
陸上機は滑走路長さの制限から離着陸する飛行機には制限があるが、海の上に離着水する飛行艇なら無制限となる。

しかし、さすがのカイザーもこんな飛行機は何処か大手の航空機メーカーと組む必要があった。
各社が尻込みするこの相談にハワード・ヒューズが応じてくれた。
しかし、陸軍も海軍も関わろうとはしなかった。
戦時中であり、ジュラルミンなど軽金属を使うことは許されなかった。
その結果、巨大な木製飛行艇が建造されることになった。

こんな大きなものを組み立てると動かすことも出来ない。
それでロングビーチのターミナル島を港湾局から借りて、そこで総組をすることになったが、胴体部分をそこまで移動させるために一時的に電柱や街路樹を抜いて植え直す必要があった(電柱だけで2300本も引き抜かれたという)。
開発は遅れに遅れ、1944年3月にカイザー社との契約は破棄され、あとはヒューズが開発を継続した。

ご承知の通り、1947年11月に行われた「滑走試験」で距離にして1マイル、高度僅かに25メートル、時間にして1分足らず飛行したのみでその後飛ぶことはなかった。

上掲の「H4・ハーキュリーズ(スプルース・グース)」は巨大な木製飛行艇として有名であるが、カイザーが発案者であったことは知らない人も多い。


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