2010年07月24日

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「LZ127」のアコモデーション・プラン

LZ127_Accomo_1a.jpg

素晴らしい資料を見つけた。

"Airships: A Hindenburg and Zeppelin History"(http://www.airship.net/)というページである。

表題のように「ヒンデンブルク」と「グラーフ・ツェッペリン」の歴史的事実を紹介したページである。
初期のツェッペリン飛行船や、それを運航していたDELAG、「LZ130(グラーフ・ツェッペリンⅡ)」やアメリカの硬式飛行船「シェナンドア」、「ロサンゼルス」、「アクロン」・「メーコン」など飛行船に関する写真を含めた詳細な記述が掲載されている。
それだけでなく、ツェッペリン伯爵、フーゴー・エッケナー、エルンスト・レーマン、クララ・アダムス、レディ・グレース・ドラモンド=ヘイなど関連人物のページもあり、当時のブリンプ(軟式飛行船)や現在運航されているツェッペリンNTについても載っている。

そのページで、はじめて見る資料に出会った。
「LZ127(洗礼後「グラーフ・ツェッペリン」と命名された)」の計画段階に描かれたと思われるアコモデーションプランである。

全体のイメージは上掲のスケッチとほぼ同じである。
船首側から比較してみよう。
操舵室は方向舵輪、昇降舵輪の位置もほぼ同じであるが、エンジンテレグラフやガス/バラストの指示計などはまだ記入されていない。
その後方の海図室もチャートテーブルを含めほぼ同じである。
さらにその後方、右手は厨房であるが、この計画段階の図面にはまだ風力発電機は描かれていない。
海図室左後方の無線室もまだ詳細決定前のものらしくテーブルや機器の配置は仮のもので送受信用風力発電機も描かれていない。しかし、無線室入り口の位置はこの図のままに作られている。
その後方は両舷一杯に使ったほぼ正方形のダイニングを兼ねたラウンジであるが、ここには計画段階の苦労が読み取れる区画である。
区画設計上の大きな課題は2つあった。
一つはラウンジ中央の2本の支柱である。
ラウンジ後端は主リングである185番リングに固着されており、ラウンジの前端は補助リングである190番リングで支えることになるが、航行中常時乗客が過ごすことになるこの区画の床を支えるために中間に支柱(ピラー)が必要であったのである。
もう一つの課題は、ダイニングのときにこの5メートル四方のスペースに着席を可能とする席の配置であった。
上掲の図では4人掛けのテーブルを4つ配置し、そのうち対角の2テーブルに無理して6人掛けさせている。2本の支柱はスペースの中央に残されている。
この唯一の公室には両舷に開閉可能な大きな窓が2つずつあり、客船のダイニングであれば海の見える窓の傍には2人掛けのテーブルを配置したいところである。
計画時のスケッチにはそれが試みられている。
中央に横長手のテーブルを前後に2つ配置し、中央に背中合わせになる4席は2人掛けのソファとし、その背中で2本のピラーを挟み込んだ配置にしている。
この中央のテーブル2つに12人を着席させ、両舷窓際にはツインテーブル4卓が配置されている。
しかし、この案は採用されなかった。おそらく実寸モデルで検討して、やはり無理だと判断したのであろう。

このダイニング兼用ラウンジの後部は両舷に乗客用キャビンが続く。
これも、その限りならば完成図とほぼ同じである。
しかし、この計画図には4人部屋が両舷に描かれている。
ラウンジに接する一番前のキャビンは前後に折りたたみ式2段寝台を備え、キャビン中央には4脚の椅子とテーブルが描かれている。
上掲図で前寄りの乗客用キャビン両舷4室の仕切り壁を外して、そこにテーブルと椅子を置いた状態を想像して貰うと良い。
このキャビンの配置には何か理由があると思っていた。
キャビンにトイレや流しなど配管の必要な場合にはそれらを束ねるため左右対称にすることは多いが、「LZ127」の乗客用キャビンに配管はない。
前から3〜5番目の寝台の向きも共通であるから、おそらく計画図を一部変更して残りはそのまま建造されたのであろう。

この計画図で判ったことの一つに寝台番号がある。
右舷最前室が1,2番、そこから後ろに3,4番、5,6番、7,8番、9,10番と続き、左舷最前室から11,12番、13,14番、15,16番、17,18番、19,20番となっている。

驚いたことに、9,10番キャビン(右舷)の後部が婦人用洗面室、その後ろが婦人用トイレ、19,20番キャビン(左舷)の後部が紳士用洗面室、その後ろが紳士用トイレと明記されているが、その更に後方に21,22番キャビン(右舷)と23,24番キャビンが描かれていることである。

ゴンドラ後部は主船体に沿わせるために床が徐々に高められ、それだけ天井が低くなり幅も狭まるので更に乗客用キャビンを設けようと努力したが諦めざるを得なかったのであろう。

完成後、ここは乗客用荷物入れのスペースとして使われていた。

「LZ127」の設計、とくに初期段階の計画時の検討過程の判るスケッチを見つけて幾つか疑問に思っていたことが判明したことは研究者として有難いことである。


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