2010年06月05日
飛行船四方山話(152):世界周航時のガス燃料
「グラーフ・ツェッペリン」が世界周航時に霞ヶ浦で充填したガス燃料はどのように準備されたのだろうか
[区分]基本設計:推進方式
[難易度] 中級
[問題]
大型硬式飛行船「LZ127:グラーフ・ツェッペリン」には5基のマイバッハVL2型12気筒エンジンが装備されていました。
このエンジンはガソリンでも、ブラウガスというガス燃料でも駆動できましたが、計画時点に日本ではブラウガスが生成出来ませんでした。
ガス燃料はどのように準備され、充填されたのでしょうか
1.事前に霞ヶ浦にブラウガス生成装置を仮設した。
2.ドイツからブラウガスを船便で届けていた。
3.アメリカから取り寄せたガスで類似の代用ガスを調整した。
4.ガソリンで太平洋を横断した。
[答]
3
[解説]
マイバッハVL2型は「LZ126:ZRⅢ(ロサンゼルス)」に搭載されたVL1型12気筒エンジン(1400回転で408馬力)を改良したもので、1基あたり出力を毎分1600回転時に580馬力(426キロワット)と改良されたものでした。
飛行船は燃料を消費すると重量が軽減するので、浮力を維持するために浮揚ガスを排出する必要がありました。
そのため、VL2型エンジンはガソリンでもガス燃料でも駆動できるように設計されていました。
「LZ127」では前後に17区画に分けられたガス嚢の中央部12区画は、上下に分割して上部6割の部分に浮揚ガスである水素を充填し、下部4割には空気と同じ比重に調整された「ブラウガス」というガス燃料が充填されました。
ガス燃料を消費すると燃料ガスの減少した隙間にはまわりから空気が入るので飛行船全体の質量は殆ど変わらず、1万キロメートル以上の航続距離を得ることが出来ました。
ブラウガスとは、ヘルマン・ブラウ博士の開発したオレフィン系・パラフィン系炭化水素である石油気化ガスです。
「グラーフ・ツェッペリン」の世界周航に要する経費は最低でも25万ドルと見込まれていましたが、その大部分は霞ヶ浦でのガス補充と燃料の準備にかかる経費だったとエッケナー博士も述懐しています。
DELAGではアメリカ海軍経由でのちにユニオン・カーバイト社となるガス会社カーボン・ケミカルズからパイロファックスという商品名のガスをボンベで765本購入し、霞ヶ浦に送らせて、保土ヶ谷化学工業と日本曹達が用意した2000本の水素と調合して補給したものです。
霞ヶ浦にはドイツからカール・ボイエルレが先遣されていました。カーボン・ケミカルズのスコット技師が製作した混合充填装置で作られた空気と同じ比重のガスが飛行船に補給されました。
ちなみに「グラーフ・ツェッペリン」の燃料ガスは、フリードリッヒスハーフェン・霞ヶ浦間はブラウガス、霞ヶ浦・ロサンゼルス間はプロパンガスと水素、ロサンゼルス・レークハースト間はプロパンガスと天然ガス、レークハースト・フリードリッヒスハーフェン間はエタンガスと、各区間毎に燃料ガスの組成が違っていました。
パイロファックスは商工省燃料研究所でプロパンガスであると分析されました。
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