2009年10月02日
近代的旅客用飛行船の系譜(9) 休戦協定直後に出現した新型飛行船(7)
「LZ120」と「LZ121」に共通する外観上の特徴は、長大な操縦・乗客用ゴンドラであった。小さな飛行船だけに「LZ127」などの場合より相当大きく見えた。
船首端の30メートル後方から長さ25メートル、最大幅2.5メートルであり、前端部約5メートルが操縦室(指令室)に充てられていた。
その部分の桁組みは3本の主リングで構成されていた。何枚かの仕切り壁が、地上で曳引されるときに作用する力を受け持ち、ゴンドラの側面には着陸時の衝撃を吸収する底部の「緩衝装置」を支える格子桁が組み込まれていた。
指令室の船首前面には方向舵手用舵輪があり、その前に羅針儀があった。左舷側船窓に向かって昇降舵輪をとる昇降舵手が立ち、船体傾斜を制御するので舵輪の上には傾斜指示計、高度計、ガス嚢の状態を監視する指示計や把手、姿勢指示計、バラスト放出用やガス調整弁の操作引手があった。
指令室には気温、気圧、速度、高度などの指示計に加えて、操縦席から各エンジンゴンドラの操機手に指示を伝達し、その応答を指令室に復誦するエンジンテレグラフがあった。エンジンテレグラフは洋上船舶で用いられていたものを導入したのである。
右舷船窓の下には航海用に海図を展開したり、ログブックに記録するための海図テーブルがあった。
壁を隔てたその後は、通常料金の倍額支払った乗客用の「優先席」になっており、その左舷側は無線室であった。
無線通信士は、アンテナ出力20ワット、波長300〜1900メートル用「通信用回路」で無線通信を行うことが出来た。アンテナには重錘をつけた長さ80メートルの電線が用いられ、風力で降下/巻上を行うことが出来た。電波の到達距離は500キロメートルであったという。波長150〜2500メートル用の2球受信機と、モールス信号を受信する3球低周波増幅器付受信機のほか、前例のない無線電話も装備されていた。その上、回転可能な枠型アンテナによるアクティブ無線方向探知機も初めて搭載された。
無線機器のために風力発電機で電力を起こしていたが、もう一つの発電機は船内用電力を供給していた。船外を照らす投光器、500ワットの電気コンロ、航海灯、43個の白熱電球による船内照明などである。
「LZ120:ボーデンゼー」は20名の旅客を乗せることを意図して計画され、乗客区画は4人用の窓に面した固定座席の5つのコンパートメントになっており、小さなテーブルもあったが必要に応じて10基までの移動式籐椅子が設置可能であった。
現に、常時満席状態で運航され、多いときには30人の乗客を乗せたと言われている。
乗客区画の前後は、中心線上にドアがあり、前方は操縦室に、後方は船尾右舷側の上下船口に通じていた。
後方の左舷側に厨房設備のあるスチュワード用の区画があり、温かい軽食もサービスされていた。その前が上下船口で、その後方に洗面台付きのトイレが2つあった。
座席には小さなテーブルと網棚があり、マホガニ仕上げや真珠光沢の象嵌細工が施され、支柱は邪魔にならないように細く作られていた。
その後建造された姉妹船「LZ121:ノルトシュテルン」では実績を考慮して、各4人用であったコンパートメントが左舷は4人掛け、通路を隔てて右舷側は2人掛けの30人用に変更された(上図参照)。
飛行船を損傷するおそれがあるので、客席には「窓から物を投げることを厳しく禁じる」という貼り紙があったといわれている。
戦前のDELAG船では、乗客が船上で書いた手紙や絵葉書が地上に投下され、それが宛先に届けられたというが、当時は自由気球のような開放型ゴンドラであった。
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