2008年11月10日

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飛行船四方山話(5):飛行船の静的揚力

LZ129.jpg

今回は飛行原理からの問題である。
入門編ではちょっと無理かも知れないので中級とする。

[区分] 飛行原理
[級]  中級

[問題]
飛行船は静的揚力と動的揚力を利用して飛行します。
静的揚力(浮力)は飛行船が静止しているとき空中に浮遊している力です。
長さ 約245m、最大直径 約41m、容積 約20万立方mであった「LZ129:ヒンデンブルク」が浮揚ガス(水素)を満充填したときの静的総揚力は、次のうち最も近い値はどれでしょうか?

1 約140t
2 約170t
3 約200t
4 約230t

[答] 4

[解説]
当時、ドイツでは水銀柱760mm、相対湿度60%、ガス温・気温が0℃の標準大気環境で、比重0.1の水素1立方mで1.16kgの浮力(静的揚力)が生じるとされていました。
ガス容量20万立方mの「ヒンデンブルク」では約232トンの総浮力が生じることになります。
しかし、ガーダーや張線などの飛行船船体構造、ガス嚢、外被、ゴンドラ、エンジン、燃料系、乗組員や乗客用の設備、その他船体から取り外せない構造物などデッドウェイトを差し引かねばなりません。
「ヒンデンブルク」ではこの固定重量が約130トンありました。
これを総浮力232トンから差し引いた約102トンが有効浮力となります。

「ヒンデンブルク」のエンジンは燃えやすいガソリンを使用するエンジンではなく、重油を燃料とする4基のディーゼルエンジンで駆動されていましたが、大西洋横断飛行の場合、ディーゼル油60トン、潤滑油3トン、バラスト水20トン、貨物と郵便物13トン、糧食3トンを差し引くと50人の乗組員と所持品、50人の乗客とその手荷物を載せる余裕は殆どありませんでした。
乗客の手荷物は1人20kgに制限されていましたが、乗客の人数、貨物や郵便物の搭載量から燃料やバラスト水の積載量が算定されていました。

空気の密度は気圧や気温によって変わります。
大気圧が水銀柱760mmのとき、気温変化5℃につき密度は1立方mあたり0.02〜0.023kg変わるので、20万立方mでは4トン以上浮力が変動します。
朝、出発時刻に霧などで予想以上に外気温度が高い場合には離陸出来ないこともありました。
それで「LZ127:グラーフ・ツェッペリン」の南米定期便は、気温変化の少ない午後8時などに出発時刻が決められていました。
飛行中に雨に遭うと、表面についた雨で飛行船の重量は6〜10トンも重くなります。

「グラーフ・ツェッペリン」では10万5千立方mの容積のうち、合計7万5千立方mにおよぶ16個のガスセルに浮揚ガスである水素を充填し、中央部の12区画には上部に浮揚ガス(水素)、下部に合計3万立方mの燃料ガス(ブラウガス)を充填していました。
これはガソリンの様な液体燃料では燃料消費に伴って飛行船の重量が軽減し、平衡をとるために水素を放出せざるを得ないので空気とほぼ同じ比重のガス燃料を用いていたためです。

「ヒンデンブルク」ではディーゼルエンジンで、重油を消費すると船体重量がそれだけ軽くなるので、重量軽減を補うためディーゼル排気を冷却して滴下した水をバラストタンクに貯めていました。


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