2007年08月04日
(飛行船:407) エッケナー博士とツェッペリン飛行船(60)
(ヤクーツクの町:ツェッペリン・アルバム(タバコカード集)から)
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世界周航(13)
低ツングースカ川流域に吹く風や旋風は、無限に広がる森林と、所々湿地のある低地を通って、荒涼として単調な北シベリア吹き抜けて行った。
長い距離を飛び続けたが、どこを見下ろしても生命の営みは感じられなかった。
たった1度だけ、人間を見かけた。
5人いて、筏の上で釣りをしていた。
おそらく多数の毛皮猟師が深い原始林に隠れて、この飛行船を見ているのであろう。
しかし、こちらから彼らを見ることは出来なかった。
川沿いにも、農耕や植林の形跡はなかった。
北極海に注ぐシベリアの河川は、外部からの関わりを拒んでいた。
従って、無限の森林資源が使われることなく残っていた。
ここで、すべてのものが商業世界に取り込まれることを切望しつつも使われることなく朽ちてゆくことを残念に思いながら、この緑の荒野上空を飛び続けていた。
おそらく、時が来れば現実となることであろう。
定常的な飛行に変化をもたらしたのは、進行方向に昼前後に現れた物凄く恐ろしげな雨雲であった。
それまで、うまく西風に乗って飛んでいたが、雨雲は両側に数kmにわたって広がり真っ黒で地表170mにまで垂れ下がり、あたかも飛行船が全く別の天候地帯に入ったかのようであった。
この、暗く今にも崩れそうな雲の下にむけて舵をとったとき乱流に巻き込まれてしまった。
しかし、大したことはなく、ちょっとピッチングと上下動を起こしただけであった。
驟雨を降らせる雲の反対側には、おそらく−12℃くらいの暖かい気団があり、それに冷たい西風が吹き付けて驟雨前線を生じさせていたのである。
空気は非常に乾燥しており、雷雨前線のような乱流が発達しつつあった。
ヨーロッパ西岸では、暴風と上下方向の突風を伴う実に嫌な気象の崩れが起きていた。
高度1000mの気温は14℃に上がっており、海面レベルの気温は20℃以上であった。
夏にシベリアの北緯64度で暖かいことは実に快適であった!
夏に限って言えば、エニセイ川とレナ川の分水嶺はステップに似た台地である。
ここに点在する人々の村、ヤクーツクを見た。
彼らは滅多に家には住まず草葺き小屋の地下に住んでいる。
地下への入り口の傍に寝ころんで快適そうに日向ぼっこしているのを見かけた。
この緯度では冬には零下24〜34℃になるので、夏に日に当たることは良いことである。
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