2007年07月30日
(飛行船:404) エッケナー博士とツェッペリン飛行船(58)
(エニセイ川:ツェッペリン・アルバム(タバコカード集)から)
(ツングースカ川上の驟雨前線:ツェッペリン・アルバム(タバコカード集)から)
(ツングースカの湿地タイガ:ツェッペリン・アルバム(タバコカード集)から)
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世界周航(11)
オビ川とエニセイ川のあいだの、単調で人跡未踏の、何処まで行っても地表の見えない原野の上空を、暗闇で正確に操舵することは極めて難しかった。
それで夜明けにエニセイの広い川裾に着いたとき、インバツクの小さな船着き場が何処にあるか判らず、北も南も見渡したが、そこを見つけることは出来なかった。
しばらく考えた後、北に向かって探すことにした。
風は夜通し吹いていたので、もしかしたら少し南に流されたのかも知れないと思ったからである。
川の本流上で北に進み15分もしないうちに、前方にその場所を見つけた。
おそらく25か30戸くらいの掘っ建て小屋の、小さな集落であったが、その集落をよく知っていた。
エニセイ川下流域にある唯一の測候所なのである。
インバツクは、我々が到達したときは25戸の小屋があったが、飛行船が去った後23戸に減っていた。
飛行船が上空を飛んでいるとき、次のようなドラマが演じられたからである。
飛行船がそこに行ったことは、彼らにとって予想も出来ない驚きであった。
シベリアの計り知れない原野の中にあるこの小さな点の様な集落にを指して、飛行船がまっすぐ飛来すると誰が想像するであろうか?
たとえ、低ツングースカ渓谷から幾ら正確な位置を航行したとしても・・・。
川の上空から低高度で近付いて、向きを変えて突然 建屋の上に来た。
小屋の戸も窓も開いていて、聞いたこともない空から聞こえる爆音の音源を見ようと頭を突き出したが、殆どの頭はすぐ引っ込んだ。
巨大な 天空の戦車の姿に恐れおののいたためであった。
重い荷を積んだ2輪車が1台、小さな小屋のあいだの狭い道をのろのろ進み、荷車曳きは物憂げに背中の袋に寄りかかっていた。
突然、彼は直立し、頭上に迫った怪物を見て跳び上がり、傍の小屋に逃げ込んだ。
荷車を曳いていた馬も驚いて、荷車を曳いたまま怯えて走り出した。
次の角で突然、側道に向きを変え、古い小屋を突き壊し、その隣も壊してしまったのである。
次に何が起こるか判らなかったが、何だか気になった。
我々は互いに、冗談のように「この平和な村に与えた損害に、沢山の金を賠償しなければならない」と言い合った。
小さな冒険は非常に興味深かった。
簡素な環境に住む原始的な人々が巨大な飛行船を見てパニックに陥り、恐れおののく状況を見て、以前に経験したことを思い起こしていた。
迷信は、こんな風にして広まるのかもしれない。
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