2007年06月16日
(飛行船:358) エッケナー博士とツェッペリン飛行船(14)
(アドルフ・ボック描く「アメリカに渡るツェッペリン(部分)」)
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ZRⅢ(ロサンゼルス)の飛行(6)
我々は、航法を教科書に書いてあるものから、実際に使えるように具体化した。
大洋の上空を、安全・正確に航行するためには、航海用語で言うところの「海流の組み合わせ」を正確に推定出来なければならない。
海流の組み合わせを知るには羅針盤を用いる。
潮の流れは水上船舶にあたるものであるが、潮流より風速の方が早い。
如何にして風力と方向を推定すれば良いのだろう?
これらは常に、場所と時間の短い間隔で変動する。
当時、我々はアセチレンを入れた煙爆弾を使った。
飛行船から落とすと、煙と炎を吹き出しながら水面に落ちる。
そのときの軌跡を見ると、どの方向に、どのくらい飛行船が流されているか容易に知ることが出来る。
しかし、大洋の海面で飛行船の速度を知るには、ドリフト角だけでなく、風向と風力を知る必要があり、全く個別に風力と風向が求まればドリフト角が求められる。
従って、ドリフトを測定して「風の判定」をすることが必要になり、2方向に舵を切って、その後海図上にそれをプロットすれば、風力と風向が求まる。
これによって望む航路と対地速度が海図上に描けることになる。
我々はこの単純な方法を、随分前に理論的に習得したが、今回それを実際に適用することになった。
ドリフト測定の正確さと、めざす目的地に到達する、確実で充分信頼できる方法を確認することが出来た。
詳細に立ち入る必要はない。
我々の航法が、洋上数千キロ先の目的地まで、安全にスケジュール通り、信頼して航行できることが判れば充分である。
一例を挙げると、一度マデイラからレシフェまで、ベルデ岬諸島を通らずに飛んだことがあったが、離陸して25時間後に1人の乗客に訊かれて「半時間以内に、フェルナンド・デ・ノロニャ島が左舷に見えるでしょう」と答えた。
20分後に、本当に島の頂部が水平線上の、言ったとおりの位置に現れたのである。
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[註1]:羅針盤
コンパスのことである。
昔から使われてきたマグネットコンパスは船体構造など鋼鉄の影響を避けるために両舷に大きな鉄球を設置しているが、地球の磁心が偏っているために磁針を補正する必要がある。
このため、ジャイロコンパスが開発されたが、通常相互チェックのためにマグネットコンパスと併設されている。
船舶用ジャイロコンパスは重いが、これを軽量化して航空機用ジャイロコンパスが開発された。
[註2]:風と潮流
風力と潮流の関係は、風浪とうねりの関係に似たところがある。
洋上では、地形や人工建築物の影響がないから風は天気図の等圧線に従って吹く。
但し、息をついたり短時間に変動することがある。
一定方向に吹く風によって、風浪や潮流が生じる。
風は気まぐれに変わっても潮流は短時間では変動しない。
一定方向に風が吹くと風浪は段々成長し、大きなうねりとなる。
インド洋などでは、いつも大きなうねっている。
[註3]:ドリフト
日本語では偏流という。
航空機や船舶がまっすぐ進んでいる筈なのに、横風や潮流によって針路から外れて流されることである。
このため、GPSのない時代、何時間も洋上を航行する場合、天測によって自船位置を確かめながら航海を続けた。
[註4]地名和文表示
このような話では地名・都市名を参考に読み進むことになるが、地図・海図上の地名の日本語表記については、基本的に平凡社版世界地図帳に拠った。
[註5]出典
挿絵の絵は Brigitte Kazenwadel-Drews著 "Zeppeline eroberun die Welt"(Delius Klasing 刊)掲載のものを部分転載したものである。
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