2007年04月17日
(飛行船:307) 『飛行船の黄金時代』 第8章:エッケナー博士に教わった飛行船操縦法(2)
格納庫で搭載中、温度、バロメーター圧力、湿度、ガス純度をチェックし、重量はキールに沿って重心が正確に浮心の下にあるか、飛行船の船首や船尾が重くなっていないかなど、飛行船の船長が細心の注意を払って確認する必要があった。
格納庫から引き出されると「グラーフ・ツェッペリン」は『ウェイ・オフ』され、平衡を確認し重量とガス揚力が等しくバランスがとれているか点検された。
その後、数百ポンドのバラスト水が放出され、離陸に必要な静的揚力が与えられた。
そのあとも飛行船の静的揚力は常に調整された。
もし、ドイツの離陸標準のように100%ガスで充填されていれば上昇するに従い、膨張した水素が自動調整弁から漏れ、揚力を低減させる。
それで飛行船は通常、飛行の初期には重く、飛行を続けるに伴って燃料を消費することにより静的に軽くなる。
しかしながら大型硬式飛行船は、動力付きの航空機として機体を上方あるいは下方に傾斜させることによって自然の翼のように作用して飛行機のような動的浮力を得ることが出来る。
「グラーフ・ツェッペリン」は巡航時に全てのエンジンを過負荷で駆動すると機首を5度上げた状態で8トンの浮力を生じることが出来、それに相当する軽さは5度の機首下げで補償することが出来た。
(緊急時には「グラーフ・ツェッペリン」は全てのエンジンを全開させると12度で12トンを出すことが出来たが、私の知る限り決して必要になる事態は生じなかった。)
2度を超えるピッチは「グラーフ・ツェッペリン」の運航上、受け入れがたいほどの抵抗があり、乗客が不快に感じると考えられていたので、飛行船は静的に平衡を保って運用されるべきであり、そのために飛行船が重ければバラスト水を投下し(「グラーフ・ツェッペリン」は自重を軽くするためにブラウガスの代わりに搭載されているガソリンを燃料として使用することも出来た)、軽ければ水素バルブを操作することも考慮されていた。
それに加えてガス温が気温と異なる場合には、飛行船の静的状態を変更することも出来た。
「過熱」は通常、太陽熱がガスを暖め、水素が拡張して飛行船を軽くするが、日が落ちてからの「過冷」は飛行船を重くするようにガスに作用する。
(続く)
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[註]:ウェイオフ
飛行船は離陸前、着陸前、飛行船の重量チェックを行う。
これを「ウェイ・オフ」と言う。
離陸時には、その場で浮上する「アップ・シップ方式」など浮上方式に従ってその飛行船に予め決められている静的浮力をチェックするために行われる。
アップシップの場合、所定の高度まで水平に上昇した後プロペラにより前進を開始する。着陸に当たっては、尻餅をつくような着陸になると乗客乗員の安全もさることながらランディングギアを損傷するおそれもあるからである。
飛行船に密航を試みる者は多いが、ウェイオフで説明のつかない重量が検出されると全船くまなく捜査が行われるので密航に成功した者はいない。
(「グラーフ・ツェッペリン」でも、最初の訪米飛行、世界一周飛行など密航を企てる者があとを絶たなかった。霞ヶ浦で忍び込んだ日本人もいた。ツェッペリンでは「出発後、密航者を発見した場合にはパラシュートで飛行船から追放する」と宣言したと言われる。)
ツェッペリン飛行船製造に入社して飛行艇を設計していたドルニエが後日開発した巨人飛行艇「DoX」初号艇が、1929年10月21(31?)日に行った記録飛行で169名という人員搭載記録を作ったが、このうち9名が密航者であった(乗員10名、乗客150名で飛ぶ予定であった)。
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