2007年04月14日
(飛行船:304) 『飛行船の黄金時代』 第7章:渡洋飛行の船上業務(5)
我々の用いていた高度計はアネロイド型であり、高度記録は晴雨計の機能の一つであった。
短距離飛行の場合、高度計は正確に読み取られなければならないが、例えば飛行船が高気圧域から気圧の低い地域に移動するようなときは500フィート程度の誤差は生じうるものであった。
このような誤差は着陸操作のような場合や、夜間もしくは雲の濃い天候では許容されるわけには行かなかった。
高度を補正するために、晴雨計ではないエコロットという商品名の装置が「グラーフ・ツェッペリン」船上には搭載されていた。
この装置には、高度をメートル表示出来るように較正された反射式光発信器が用いられており、目盛りの最低表示はゼロであった。
空砲を装填された銃で、指令ゴンドラの脇から下向きに発射すると、反射光が目盛りの基点を指した。
エコーが表面から帰ってくると反射波は振動し、それから高度を読み取ることが出来た。
エコロットを正確に読み取るには、ある程度の技能が必要であった。
また、乗客を煩わせないために夜間は使用しなかった。
ドイツ人達は、このほかにも工夫して高度を測定する、新しく正確な方法を考え出した。
彼らはワインやビールを沢山飲んだが、瓶入りのミネラルウォーターも沢山飲んだ。
そして、空になった瓶を「グラーフ・ツェッペリン」の船上にとっておいた。
前もって落下時間と、空のミネラルウォーターの瓶を投下した高度をプロットした海図が用意された。
アネロイド高度計を補正するために瓶が船上から投下され、時間をストップウォッチで測定した。
これで直ちに高度が確定した。
瓶は「グラーフ・ツェッペリン」から南大西洋に(「ヒンデンブルク」では北大西洋に)、ローヌ川やライン川に、あるいはフリードリッヒスハーフェン近くのボーデン湖に投下された。
瓶投下による高度の測定は、夜間に利点を発揮した。
サーチライトを使って計測できるからである。
しかし、水上の飛行に限定されるが・・・。
気象は「グラーフ・ツェッペリン」の士官達にとって常に重要な関心事であった。
彼らは乗客が混乱するからだけではなく、船体構造に無理な力をかけないように厳しい乱気流を避けること、中でも雷を伴う嵐を回避するために好都合な風を探すことを望んでいた。
フリードリッヒスハーフェンからリオデジャネイロまでの航路上の各地には固有の気候的特徴があった。
ローヌ渓谷では、通常ミストラルが吹いており、強い北風が谷に吹き下ろしていた。
この現象は、イギリス諸島上空に中心をもつ高気圧が北西から北東に移動することによって生じる。
ミストラルは山岳上空から吹き下ろす風が激しく吹き付け、突然風向が変わるので飛行船の乗客にとっていやなものであった。
反対の現象は、ドイツ人がフェーンと呼ぶ地中海から吹く暖かい南風で、低気圧の中心が大西洋で減衰して、ビスケー湾とフランスを横切って地中海に来るときに吹くことが多かった。
これがロシア上空の高気圧を伴って来るとき、通常は強風でなく適度な風力のフェーンとなる。
向かい風のとき、反時計回りの気圧低下の動きを伴い北大西洋を渡って西から東へと吹く。
この向かい風に遭遇したときは通常地中海上を飛んでいるときか、ジブラルタルの西の辺りである。
この場合の主な特性は強風ながらそれほど大きな気温の変化はない。
特に10月、11月、12月にはローヌ渓谷を強い風が吹き抜け、地中海をジブラルタルに向かう。
ケープ・ヴェルデ諸島とフェルナンド・ノローニャの間の赤道無風帯は熱帯雨と突風を伴って向かい風になった。
向かい風は北西から南西に向けて横たわり、これに遭遇したときは出来るだけ早くやり過ごすために飛行船の針路を左舷に変更した。
気象の変動は非常に急激で、華氏9度から18度のような温度変化がしばしば起こった。
全ての向かい風が雲や雨、暴風を伴うものではなかった。
ある時は快晴で風向の変化や気温、湿度の変化を伴った。
(続く)
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[註]:世界一周飛行で、霞ヶ浦からロザンゼルスまで乗船した日本海軍の草鹿龍之介少佐は太平洋上で高度を測定するために発射された銃の発射音を聞いている。
しかし、聞こえるエコーでおおよその高度を推測していると考えていたようである。
草鹿龍之介少佐は後日、航空母艦「赤城」艦長、第4連合航空戦隊、第24航空戦隊司令官を務め、連合艦隊参謀長になった。終戦時中将であった。
ちなみに世界一周飛行で、フリードリッヒスハーフェンから東京まで乗船した日本人は、藤吉直四郎少佐、大阪毎日の円地与四松記者、大阪朝日の北野吉内記者の3名、東京からロサンゼルスまでは、海軍軍令部の草鹿少佐、陸軍航空本部の柴田眞三郎少佐、それに電通の記者が乗船している。
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