2007年04月12日
(飛行船:302) 『飛行船の黄金時代』 第7章:渡洋飛行の船上業務(3)
大型飛行船は大西洋横断飛行で文字通り数日の飛行を行い、乗務員は航洋船と同じように3直で業務に従事していた。
「グラーフ・ツェッペリン」の乗組員は次の通りである。
指令(船長資格):1名
当直士官(船長資格):3名
航海士:3名
昇降舵手:3名
方向舵手:3名
通信士:3名
機関士:1名
キール技師:2名
操機手:15名
電気技師:2名
調理師:2名
スチュワード:2名
指令は当直に立つことはないが、常に責任を持っている。
運転室の当直は当直士官と航海士で、それぞれの当直は4時間毎に、24時間に2回の当直となる。
最初の当直は午前・午後とも12時から4時まで、第2直は4時から8時まで、第3直は8時から12時までである。
この当直は移動せず、同じ士官はいつも同じ時間に当直に立つ。
これは最良の配置で、特に標準ルートを飛行するときには この当直が適している。
昇降舵手、方向舵手を含む残りの乗組員は日中2時間、夜間は3時間の直につく。
3直の場合、それぞれの持ち時間は常に変更されていた。
日中はそれぞれ、次の当直の前2時間は待機(パケットワッチ)で、夜間は通常の当直前の3時間が待機であった。
夜間は、あまりすることがないからで、それぞれ6時間睡眠をとることが出来た。
全ての乗組員には追加の仕事があった。
一等通信士は要求に応じて飛行船指令に報告するが、彼の当直時間には直接当直士官に報告し、その他の通信士も同様であった。
昇降舵手、方向舵手、セールメーカー(ガス嚢・ガスバルブ・外被・バラスト袋の責任者)は士官食堂のテーブルサービスなどのような追加業務もあった。
また、例えば制御索の点検のような点検業務もあった。
これは、ある担当に割り当てられ、一日に2度点検を行っていた。
昇降舵手・方向舵手は非番のとき、通常天気図を描いており、当直士官か飛行船指令に渡していた。
1直の当直士官は実務担当士官としての業務もあり、2直の当直士官はパーサーも担当し、3直の当直士官は航海長を担当していた。
但し、配置はその当直士官の個性と資格によって決められていた。
私は「グラーフ・ツェッペリン」の運用に関する知識を完全に把握するために、ヴィッターマン船長の当直についた。
彼の航海士、ハンス・ラドウィクが英語が堪能だったからである。
私は通常の状態ではヴィッターマンの当直時にブリッジにいるほかに特定の任務はなかった。
当直の合間には飛行船の操船、キール当直、ガス嚢、エンジンその他全てについて堪能になるように心掛けた。
なぜなら、操船と方向舵・昇降舵の操作は飛行船の感覚を理解する上で非常に重要だったからである。
私はなるべく多くの時間をブリッジで過ごした。
通常担当している方向舵手か、昇降舵手をペルナンブコに残したとき、その代わりに方向舵手か昇降舵手の当直に立つことになっていた。
それに加えて、昇降舵手の仕事が多すぎるときにそれを分担することで、彼はほかの仕事をすることが出来た。
その手助けが私にとって意思疎通と経験の両面で有難かった。
私がそれらの操作をしても、私の技量に関して何も問われることはなかった。
(続く)
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[註]:「グラーフ・ツェッペリン」では数時間の短時間飛行を除いて40〜45名程度の人間が乗り込んでいた。
各資料とも総責任者の指令1名のほか、船長資格の当直士官3名、航海士3名、昇降舵手3名、方向舵手3名、通信士3名、操機手15名(何れも3直配置)は共通しているが、そのほかはまちまちである。
航洋船舶で言う甲板長のような船体の維持・保守・緊急処置の担当者は、構造部材担当のキール(竜骨)技師、外被やガス嚢・ガスバルブなどを担当するセール担当も必要である。
構造担当や電気技師は1人の場合も2人乗船する場合もあった。
調理師は通常1名で、スチュワード1名、ボーイ1名のこともある。
飛行船は風や雨など天候や、気温・湿度・気圧配置など微妙なバランスの上で運航しているのであり、微妙な気圧変動や僅かな傾斜の変化を先読みして昇降舵やバラスト操作をせねばならないので、航洋船舶の当直航海士のほかに当直船長とも言うべき当直士官が必要であった。
このため、方向舵手よりも昇降舵手の方が経験と読みが要求された。
航洋船舶では通常トリムやヒールで船が傾くことはないが、飛行船は30度40度の傾斜は常に起こりうるのである。
運転室配置の乗組員には全て気象予報士の知識が要求され、通信士は24時間気象情報の報告が重要な業務であった。
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