2006年09月20日
(飛行船:103) 飛行船メモ(2)−省エネルギ飛行と上昇限界−
飛行機はプロペラを回転させるかジェット噴射により高い前進速度を生じさせ、翼にあたる空気の相対速度によって主翼の上面と下面に作用する動圧の差で揚力を得て浮揚する。
空気との速度差を得るために飛行場の滑走路は長い直線路が必要で、飛行甲板の長さに制限のある航空母艦は風を正面に受けるように全力で走って相対速度を補う。
従ってエンジンが停止し空気との相対速度が得られなくなれば墜落する。
このような揚力を動的揚力という。
そのため飛行機は非常に大量の燃料を消費している。
飛行船はガス嚢に空気より軽い気体を入れて、その比重差で空中に浮かぶ。
この揚力は静的なもので前進用のエンジンが止まってもそのまま空中に浮揚していることが出来る。
飛行船が省エネルギーで地球にやさしい乗り物と言われる所以である。
飛行船は地上に繋留されているときは常に風を正面に受けるように方向を変える。
このため360度廻っても差し支えないような広い繋留地が必要で、どんな状態でも飛行場の制限表面を侵害してはならない。
軟式飛行船の場合エンベロープの内部にはヘリウムのような空気より軽い気体が入っており、普通その前後に2箇所バロネットという空気房がある。
空気と浮揚ガスの比重の差を利用して後のバロネットに空気を送り込めば後が重くなり飛行船は船首を上に向ける。
このバロネットを利用して姿勢を制御しているのである。
空気の密度は上空に行くほど低くなるし温度によっても変動する。
飛行船が高度をとって上昇すれば気圧が低くなり浮揚ガスが膨張しバロネットを圧迫するのでバロネットの空気はエアバルブから排出される。
バロネットのエアがすべて排出されたときの高度を圧力高度といい、その飛行船の実用上昇限度である。
実用上昇限界は地上状態でバロネットにエアをどれだけ入れていたかによって異なるし、その時点の気温・気圧・湿度でも変わってくる。
それ以上上昇するとガスバルブからガスが放出されろので降下した際に船体内圧が不足し外形が保持できないので通常の操船が出来なくなってしまう。
大型の硬式飛行船では殆ど水平状態で運航されていたので姿勢制御の必要はなかったが突風などで大傾斜したこともあった。
「グラーフ・ツェッペリン」は一度だけ49度の傾斜を経験したことがあったと言われている。
但し、飛行機と違って静的な飛行のため旋回時にも横傾斜は小さかった。
掲載したイラストは R.Archbold著、K.Marschall画「HINDENBURG −an illustrated history −」の巻頭に掲載されていた五輪旗をなびかせて競技場上空を往くヒンデンブルク(部分)である。
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