2006年08月16日
(生い立ちの記:31) 浚渫運転支援装置の開発研究
国内の浚渫工事量は戦後の臨海工業コンビナート建設をピークに減少し、当時の運輸省や建設省など官主導の港湾航路維持浚渫や赤潮など、環境整備事業に止まっていた。
大規模な作業船団を擁する大手浚渫企業ではリスクを犯して海外の大規模浚渫事業に進出していた。
スエズ運河の拡幅増深工事や、ペルシャ湾岸の産油国がそのオイルマネーで将来に備えた大規模な港湾整備事業に乗り出していたのである。
この写真はスエズ運河庁に納めた大型カッターサクション浚渫船であるが、新機軸を盛り込んだポンプ船であった。
このポンプ船の運転室であるが、まるで大型ジェット旅客機のようなコンソールである。
運転に自信のない場合は計器やデータに頼りたくなるものなのだろう。
業界でポンプ船と呼ばれるカッターサクションドレッジャーは運転者の技量によって時間あたり浚渫量が倍半分と言われるくらい個人差が大きかった。
国内で大規模な浚渫工事が行われていた頃は経験と勘で運転ノウハウを習得していたがそれが途絶えて技量の伝承が難しくなって来ていた。
浚渫運転のポイントは大きく2つに集約される。
その一つは浚渫ポンプで吸い込み揚土場に管送される土砂の濃度を上げて効率を上げることで、もう一つは海底を計画通り精度よく浚渫することである。
高濃度浚渫はカッターとポンプの負荷、スイングウィンチの回転数や負荷を検出し、運転者に適正運転のためのガイダンスを表示させ時間当たり浚渫量向上を計った。
また、竣工検査で掘り残しがあると再度浚渫せねばならないし、余掘りと呼ばれる無駄な浚渫は作業時間とエネルギーのロスを局限することにした。
このために浚渫機器や動力計の信号の他、精密な喫水計・傾斜計、ジャイロ信号などを取り込んだ。
国内大手の浚渫企業と共同研究として、このプロトタイプを北海道で稼働予定の浚渫船に搭載して実稼働試験を行った。
共同研究先の企業は熱心であった。
実稼働運転なのに準備にも時間を掛けてくれ、オペレーターには迷惑だと思うのにフロントグラスの外に大きなディスプレイを2台置き、これで運転して評価してくれた。
とうとう、運転室の窓を全て黒い紙で覆って航空機で言うところの計器運転までやってくれた。
開発研究の担当者としては頭の下がる思いであった。
途中で台風の来襲予報があって北海道の某地まで2往復して貴重なデータを取得することが出来た。
浚渫企業からはこのままで良いから欲しいと言われたが、1ヶ月程度の稼働ならともかく、衝撃・振動・湿度・温度など厳しい環境で引き渡す仕様になっていなかったのでお断りするほかなかった。
実に貴重な研究体験が出来たことを感謝している。
その実験研究を「ポンプ浚渫船の浚渫制御に関する研究(第一報)」として日本造船学会の平成4年秋季講演会で講演し、同学会論文集第172号に掲載された。
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