2006年07月23日
(飛行船:75) 『飛行船の黄金時代』 第6章:グラーフ・ツェッペリンの南米飛行(1)
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第6章 「グラーフ・ツェッペリン」の南米飛行
1934年6月3日、ジョージ・ルイスとショーティ・ミルズは「グラーフ・ツェッペリン」の南米飛行から帰任した。
ジョージと私は交互に「グラーフ・ツェッペリン」に乗ることになっていたので6月9日に出発する予定の、その年の第2回飛行は私が乗る番であった。
その頃「グラーフ・ツェッペリン」の大西洋横断旅客飛行については毎回決まった手順が出来上がっていた。
出発日に乗客が揃うとクアガルテンホテルで夕食を摂ることになっていた。
夕食が済むとツェッペリン工場の「グラーフ・ツェッペリン」の格納庫へバスで移動し、そこで格納庫から出るまえに飛行船に乗り込んだ。
出発は午後8時が予定されていたが、時には郵便物が届くのを待つために遅れることもあり、稀にフランスのローヌ渓谷に発生した霧や雷雨のために出発を遅らせることもあった。
飛行船の出発は乗客にとっても地上にいる人達にとっても魅力的なものであった。
天候によって左右されるが2〜300人の地上員が、移動用繋留柱に繋がれた飛行船を格納庫から曳き出し、ドッキングレール上のトロリーに前後を繋索する。
格納庫と繋留柱から解き放たれた飛行船はトロリーからも離れ、地上員によって保持される。
殆ど完全な静寂の中、飛行船を900〜2200ポンド軽くするためにバラスト水を放出して最終ウェイオフ(註1参照)が行われる。
『アップシップ!』の号令(註2参照)によって「グラーフ・ツェッペリン」は地上員の手を離れ、静かにおよそ150フィートまで浮揚し、エンジンテレグラフ(註3参照)は第一エンジンを呼び出し、次いで第2・第3・第4・第5エンジンにも伝達される。
全てのエンジンがアイドリングの状態で300フィートに達するとエンジンテレグラフは全エンジンに回転数を上げよと信号を送る。
飛行船が速度を速め高度を上げて行くにつれて操縦室と乗客の乗ってる区画の灯りが段々と暗くなり、微かな爆音を残して夜の空に消えて行く。
離陸はすべて基本的に同じである。
静かで統制のとれた、ある種の決まった作業の流れであった。
(続く)
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[註1]:ウェイオフ(WEIGH OFF)
飛行船は、離着陸の際の船体重量を適度に調整する必要がある。
離陸前および着陸前に船体重量をチェックし、適当な重量に調整することをウェイオフという。
離陸前には、地上支援員が、船体下部のゴンドラ等にあるハンドリングレールを持って船体を持ち上げ、船体重量の概略値を計り、バラストの増減により重量を調整する。
また着陸時には、着陸予定点の風下側で一旦空中停止(ホバリング)し、その沈降(上昇)速度により船体重量を推定、適切な処置をとる。
(出典:田中新造著「飛行船の雑学」(グラフ社刊)による)
[註2]:アップシップ(UP SHIP)
飛行船の離陸方式の一つ。
無滑走離陸のこと。
飛行船を全く地上滑走することなく離陸させる場合、硬式等大型船では、地上で風上に船首を立てた状態でバラストを投下し、そのまま浮揚する。
また小型船では、地上支援員がゴンドラ下部のハンドリングレールをつかんで船体を一旦持ち上げ、ついで引き下ろし、ランディングギアの接地時の反動を利用して、もう一度船体を上方へ突き上げる。
このとき、船長はエンジンをフルに回転させ、そのまま上昇する。
(出典:同上)
[註3]:エンジンテレグラフ(ENGINE TELEGRAPH)
推進機関運転連絡用として操舵室と機関室に設置される命令伝達・確認応答用装置である。
命令/指示を発信するレバーと、応答を確認する指示盤を一体として構成される。
停止・待機・微速前進・半速前進・全速前進・微速後進・半速後進・全速後進・などが表示されたものが双方に設置されている。
操舵室では注意を喚起するためレバーを前後に動かした後指示する位置で止める。
機関室ではこれを確認し同様にレバーを操作して命令を復唱する。
機関の種類によって指示・応答の表示は異なる。
船舶の場合、一軸船は片面のみ、二軸船は左右対称で両舷独立に使えるようになっている。
写真は、夜間 格納庫内の「グラーフ・ツェッペリン」の船尾部である(同書、P49)。
未だ鉤十字とドイツ国旗が描かれる前の状態である。
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