2006年05月09日

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(飛行艇の時代:56) 飛行艇を考える(3)

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(シコルスキーS42)


前回「飛行艇の構造や機構など技術的な事項について検討をすすめる」と述べたが基本的に飛行艇は飛行機そのものであり、その構造や機構については専門書も出ているし、ブログにしてもウェブページにしても飛行機・航空機の分野のものの方が詳しい筈である。
第一、ブログとしてあまり面白い内容はない。

従って、ここでは飛行艇特有の事項について考えることにする。

飛行艇の宿命として、水(大部分が海水)に浮かびその飛沫を浴びることがある。

艇体や翼は腐食のため寿命を縮めるし、エンジンに海水を吸気すれば不調や故障の原因になる。

このため主翼を可及的高い位置に置きたいのでシコルスキーや川西大艇のようにパラソル式にするか、ショート・エンパイア、ボーイングB314のように背の高い艇体の上部に片持ちにする、いわゆる肩翼が採用される。

しかも着水したあとはスリップウェイで陸上に引き揚げてシャワーで塩気を洗い流したあと点検整備を受けることになる。

一方、海に浮かび離水・着水するわけであるから船舶(舟艇)としての機能も具備せねばならぬ。

艇首に軽金属製の錨を備えるのは当然として、固有艇名から『Cクラス・ボート』と呼ばれていた英ショート・ブラザーズのS23(改良型のS30/S33も含む)「エンパイア」などは操縦室をブリッジと称していたし、クルーは船舶相互の信号に用いる手旗を読めなければならなかった。

今回は水上で艇体(姿勢)を保持するためのフロート(浮舟)について考える。

水の抵抗は空気抵抗に較べて桁違いに大きいので飛行艇は序走時に翼端が水面に接触すると飛び上がれないばかりでなく破損してしまう。
このためグレン・カーチスが1911年に水上機を、翌年世界最初の飛行艇を完成させたとき以来翼端に橇のようなものをつけていた。


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(ボーイングB1飛行艇)


この飛行艇はボーイングが1928年に作ったB1である。
当時は複葉で直立状態の下翼から水面まで近かったのでこれで済んだのである。

単葉になると上述の理由で水面から相当高くなり、主翼の翼端近くから支柱を降ろしこれに浮舟をつけることが一般に行われるようになった。
しかし、この支柱や翼との間に張り回したワイアは重量よりも空気抵抗が気になることは確かである。

これを回避するためにイタリアのサヴォイアS55のような双胴飛行艇も開発されたが主流にはなり得なかった。


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(サボイアS55双胴双発飛行艇)


ドイツのドルニエが最初に開発した複葉の大型飛行艇には両翼端に小さなフロートが取り付けられていた。

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(Rs1大型飛行艇)

彼はこの付加物に代わる方式を考案し実現した。
艇体水面部に横に張り出したスポンソンを翼端フロートの代わりにしたのである。

1919〜20年に完成した商用飛行艇や「デルフィン」、後年の成功作「ヴァル」、それに例の超大型飛行艇「Do-X」などは何れもスポンソン方式であった。

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(ドルニエ DelphinIII飛行艇)


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(ドルニエ Wal 飛行艇)


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(ドルニエ DoX 超大型飛行艇)


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(ドルニエ DoS商用飛行艇)


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(ドルニエ Wal4発飛行艇)

大型の艇では乗降する際のステップとして利用出来ることが便利であった。

しかしこの大型付加物の抵抗は大きいためドルニエ以外ではマーチンM130、ボーイングB314などが採用したに留まった。

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(マーチンM130 大型飛行艇「チャイナクリッパー」)


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(ボーイング B314 大型飛行艇)

なるべく空気抵抗を減じようと断面を翼型にしていたがスポンソンの飛行中の浮揚力については実効あるものとは思えない。

ドルニエも1937年に完成したDo26では折り畳み式翼端フロートを採用している。
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(ドルニエ Do26 4発飛行艇)

翼端フロート方式も大きさや取り付け位置、特に上下位置は微妙である。

あまり低くすれば助走時水面に両舷の浮舟が接触して水面との摩擦抵抗が大きくなりハンプを乗りきれず離水出来なくなる恐れがある。

かといって高くすると浮遊状態でどちらかのフロートで安定するために静止状態での横傾斜が大きくなる。

助走に入って翼に揚力が生じると艇体を垂直に立て両舷のフロートは水面から離れるのでスロットルを全開にして加速し離水する。

何れにしても飛行状態では空気抵抗以外の何物でもないので早くから折り畳み式などが考案されて来た。

クリッパー時代でもシコルスキーやショート、コンソリデーテッドそれに川西などは一貫して翼端フロート方式であった。

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(シコルスキーS42飛行艇)


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(ショート・シンガポールIII型飛行艇)


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(ショート・ケント飛行艇)


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(コンソリデーテッド・コモドア飛行艇)


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(川西式大型飛行艇)


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(マッキ飛行艇−詳細不明−)

アメリカのコンソリデーテッド・コモドア飛行艇の補助浮舟(フロート)は他艇に較べて大きいような気がする。


Comment on "(飛行艇の時代:56) 飛行艇を考える(3)"

(旧)紺碧の海さま
ハーブの住人です。いつも興味深く拝見させていただいております。
勝手ながら、上記URLの拙ブログに、このページのLINKをさせていただきました。ご了解を賜りたく。

先だって購入いたしました図書(工場を歩く -ものづくり再発見-)に紹介されている製品に関して、各製品の温故知新と、ものづくり再考のヒントになるようなブログカテゴリを構築できればと考えております。
よろしくお願い致します。

ハーブの住人さま
たびたびのコメント、感謝しています。
お説のように最近モノを創る・開発する喜びを知らない若者が多くなったような気がします。
生き甲斐も目標もなく、手を汚さず楽をして金が手に入れば良いという生き方で、何でも出来る若いときを過ごすことを気の毒に感じることがあります。
「ものづくり」の目次を見せて貰いました。
今度行ったら海文堂か淳久堂で捜してみようと思います。