2006年01月30日

*** 当ブログは2014年5月末に引っ越しました…新しい「紺碧の海」はこちらです ***

海底二万海里

Nautilus1.jpg

昨年5月に福音館文庫からジュール・ベルヌ著清水正和訳「海底二万海里(上・下)」が発行された。

ジュール・ベルヌは「八十日間世界一周」や「月世界探検」などを書いたSF(科学小説)作家として有名であり「海底二万海里」はディズニーが1954年にネモ艦長にジェームス・メイスンを起用して映画化されている。

ロードショウのときはシネマスコープの画像はきれいであったが、「ノーチラス」の外観と艦内のシーンのギャップに違和感を感じたものである。

今回発行された福音館文庫には、原書出版当時のオリジナルのエッチングによる挿し絵が収められていると聞いて購入した。

著者がネモ艦長に説明させているところによると、「ノーチラス」は鋼板製複殻の長さ70m幅8mの潜水艦で、潜航時排水量は1500トンであると言う。
物語は1866〜8年という設定であるが、1927年建造の日本の一等潜水艦伊21型(潜航時排水量:1768トン)の定員は50名程度、1943年建造の2等潜水艦呂35型(潜航時排水量:1447トン)の定員は60名程度であった。

「ノーチラス」は電気推進であるというが文面を読む限り乗組員は数十人も居ないようである。
ネモ艦長は銛打ちネッドの「ところで、船内には何人ぐらいの人がいると思いますかね。十人、二十人、五十人、それとも百人ぐらいでしょうかね?」という質問に「わたしにも答えられないよ。」と答えを避けている。

ディズニー映画の「ノーチラス」は鋼鉄の塊のような、名古屋城の金の鯱の鋳鋼版というゴツゴツした感じの艇体であったが、A.ド・ヌヴィルのエッチングによる挿し絵はアスペクトレシオも大きく表面の突起も殆どない紡錘形で最初の実用的潜航艇であるアメリカのホランド型に近くこちらの方が現実性が高いように思える。

ヌヴィルの挿し絵を幾つか転載する。

冒頭の絵は沈められた「エイブラハム・リンカーン」号から海に投げ出され「ノーチラス」号に乗った3人を描いているがいかにも潜航艇の艇体が小さい。
これでは1500トンどころか100トンにもならない。

Nautilus2.jpg

アロナックス教授がネモ艦長とダイニングで食事をしている場面であるが、現在配備についている排水量1万トン以上の潜水艦でもこれだけ天井の高い区画はない。
立派なダイニングである。

Nautilus3.jpg

ネモ艦長の図書室である。
各国語で書かれた科学書・哲学書・文学書が並んでいたが政治経済に関する書籍はなかったとアロナックス博士は描き残している。
艦内の区画としてはダイニングに隣接するか、そうでなくても近くであろう。

Nautilus4.jpg

シャコ貝の噴水盤とパイプオルガンのある大サロンである。
ダイニング・図書室とも窓がなく地下室のような感じがするが、サロンには高さ3m幅5m以上はあろうかと思われる大きなガラス窓があり、必要なときに海中を展望できるという設定である。

Nautilus5.jpg

ネモ艦長が艦外に出て天測を行っている絵である。
艦長の足下に見えるのが操舵室の窓らしい。
前後が描かれていないので判らないが、潜航中の摩擦抵抗を低減するためか操舵室の突起部分が船体に較べて小さいのかも知れない。

Nautilus6.jpg

水中状態の全体が判る絵である。
本文によると舵手のいるガラス張りの操縦室が船体上部に出ており、その操縦室の背後に強力な電気照明がおかれていることになっている。
この投光器の配置については特に記載がない。
この絵はものすごいヤリイカの大群に遭遇した場面である。

Nautilus7.jpg

「ノーチラス」が水面上に浮き上がった状態である。
この絵で見ると突起物、付加物が殆どなく推進抵抗の面から見れば理想的な船体形状に見える。
ディズニーのモデルは鋳物のようなゴツゴツした突起だらけの「ノーチラス」であったが、あまり流線型だと娯楽映画として詰まらないと思ったのだろうか。
特に船尾甲板に収納されているボートに鋳鋼製のカバーが付いていたのは面白かった。


Comment on "海底二万海里"

"海底二万海里"へのコメントはまだありません。