2005年08月03日

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(生い立ちの記:20) 波浪外力解明のための実船試験(2)

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実船試験の第一回は、瀬戸内海と南米チリ往復であった。
計測機器が正常に作動するか、新開発の観測機器は機能を発揮するか、その他懸案事項が多く、研究所のベテラン計測員と研究担当者が乗船した。

瀬戸内海の製鉄所に供試船が入港する短時間のうちに検出端や計器の据付調整を行い、2ヶ月もの間の資材や消耗品も積み込むので、研究所挙げての工事となった。

当時、国内では未曾有の好景気で、工業団地も造成され、鉄鋼の生産も盛んであったが、原料となる鉄鉱石と石炭は輸入に頼るしかなかった。

しかもアフリカとか南米のように政治的・経済的に必ずしも安定した処とは限らなかったので、年率100%以上のインフレに見舞われたり、政権交代があると安定供給が期待できない状態であった。

従って、大手総合商社などが資本を出して豪州に大規模な鉱山を開発していた。
豪州北岸であれば日本から片道10日で届く距離であるし、豪州政府は政治・経済両面で安定していた。

しかし、1箇所に依存していては、一朝事あるときに一大事となるので広く世界に資源を求めていたのである。

1次航のチリもそうした輸入元の一つであった。

2次航からは、数回にわたって豪州のダンピアやポートヘッドランドであった。

M社H地区の研究所や造船所の技師だけでなく、本社技術本部や当時の運輸省の技官も計測員として乗船した。

そして、8次航はアフリカのアンゴラと決まり、私と2年後輩のSが乗船することになった。

専用船の場合、航行中に本社から無線で次の目的港が指示される。

従って、目的港が決まってからビザの申請を出すことになる。

パスポートは取っていたが、県庁にビザの申請に行くと「アンゴラ」の場合、何処に申請すれば良いのか調べるところから始まった。
世界各国が日本に大使館や公使館を置いているわけではなく、どこかの国に手続きの代行を頼んでいる国や地域もある。

やっとビザの申請が済んだら、アフリカだから黄熱病の予防注射が必要だと言う。

寝台列車で上京し、羽田空港で予防注射を受けて、いまはもうなくなったフェアモントホテルで一泊して帰任した。

そして瀬戸内海の小さな港で出国手続きをしてやっと乗船する見通しが立った。

昭和46年8月11日に瀬戸内海のF港を出港し、その日の正午位置(ヌーンポジション)は小豆島地蔵岬南東の播磨灘であった。

乗組員は、No船長Ni機関長以下職員10名、部員15名に我々計測員2名、それにアフリカ航路であるので船医の代わりに看護婦が1名乗船していた。

計測員もそれぞれに部屋をあてがわれた。

バス・トイレは共用であるが快適な居住空間であった。

我々計測員は毎食キャプテンズテーブルで食事を取ることになった。

No船長・Ni機関長・Yz局長(通信長)・Yd一等航海士がテーブルメートである。

Na一等機関士・Ya2等航海士・T次席さん(2等通信士)などは別のテーブルで、自分で給仕して食べたら食器を流しに出して退室する。
これは、それぞれ当直時間が決まっていて非番のときに食事をしたり、睡眠を取ったりするするからである。
0時から4時、4時から8時、8時から12時の4時間勤務を午前と午後に繰り返すのである。
それぞれ「0:4ワッチ」「4:8ワッチ」「8:0ワッチ」と呼んで航海士は船橋で、機関士は機関制御室で直に当たっていた。
無線部は、以前は24時間体制であったが、その当時は他船の通信の中継は不要となっていたので夜間の当直は廃止されていた。

船長や機関長は当直がないので3食とも決まった時間に食事を摂る。
毎食、キャプテンのテーブルで食事を摂ると聞いて最初はちょっと緊張したものである。
「今日は海が穏やかで良かったですね。」とか「計測は順調に進んでますか?」とか、こちらにも話題を振ってくれる。
適当にお相手しながら食べるのであるが、茶碗の飯が後一口になると後から音もなく銀色の盆が差し出される。
我々の父親くらいの年齢のM司厨長が、皆の食事が済むまで給仕してくれるのである。

1〜2日は、内心申し訳ないなと思っていたが3日目くらいから当たり前になってしまった。

国際航路を走っている船の上では免税なので、ビールはジュースやサイダーよりずっと安く、ウィスキーもスコッチであった。

ケースで受け取って、サインをしておけば下船時に主計長(局長が兼務)が精算してくれるのである。

ようやく往復2ヶ月途中無寄港の航海に乗り出した。


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